The Pitcher in the Rye

I'd just be the catcher in the rye and all. I know it's crazy, but that's the only thing I'd really like to be.

政府の情報システム調達の今後についてちょっと調べてみた

政府のシステム調達の一般的な流れ

政府機関のシステム調達はかなりお硬いプロセスに則っています。 基幹系のシステム導入を大きな企業が行う場合と同じなのだけど、以下のような流れです。

  1. RFI
  2. 意見招請のための官報公示
  3. RFP
  4. 提案書の審査
  5. 契約

その後、契約締結後は仕様変更によって、契約内容が更新されることはあるけれど、基本的にはRFP時の要求とそれに対する提案がベースになって、設計、製造、試験、受け入れとなります。 当然ですが、契約形態は”請負契約”でありシステムの開発はがちがちのウォーターフォール開発になるのが一般的です。

アジャイル開発の導入に向けた政府の取り組み

ただ、昨今のIT業界の情勢を受けて、政府調達にも改革の流れが及んでいるみたいです。 未来投資会合なる会合が平成28年度から開始されていて、そこの構造改革徹底推進会合の中で、IT関連の議論及び政府の調達のあり方に対する議論が行われていました。

構造改革徹底推進会合(H29.9~)第4次産業革命」会合

「第2回 平成30年1月18日 行政からの生産性革命について」の資料によれば、下記のような課題が調達の仕組み上の問題として挙げられています。

○予算・契約上の問題

システム開発経費の変動や各省横断的なシステム開発を各省の予算上吸収しきれない、単年度主義により効率的な開発ができない、予算要求時から開発まで2年弱は要するなど時間を要する、アジャイル開発の調達成果物の設定ルールが明確でない、入札手続き以降は具体的内容を変更調整できない等

これによれば、予算・契約上の問題がアジャイル開発等の導入のネックになっているという問題意識を政府側も意識していたようでした。

デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン

上記の議論を継続して行っていった成果なのか、2019年(平成31年)2月25日最終改定のデジタル・ガバメント推進標準ガイドラインには以下のような記述がされていました。

なお、利用者が多岐にわたり、要件定義等の関係者に対して綿密な調整が必要となる等の場合は、開発手法としてアジャイル型を導入することで、利用者の利便性を向上させるよう考慮する。その際、変更管理に基づき、既に作成された設計書や要件定義の内容を見直すことも想定した計画を立案すること。

上記以外にも、アジャイル開発に関する記述が明確に記載されていて、アジャイル開発を政府調達にも導入しようとする動きが見えます。

少し前に話題になっていた、経産省と本気でアジャイル開発をやってみた!制度ナビPJで見えたGovTechのリアルと未来のイベントもこうした流れを受けての企画なのだと思われます。

2019年度の閣議決定

ガイドラインを整備したのち、前述の課題でもあげた予算や調達の課題はどうなったかというと、それらも議論は継続されていて、調達上の対策としては経済財政運営と改革の基本方針 2019 について(令和元年6月 21 日 閣議決定)の中で、下記のような形で盛り込まれていました。

政府情報システムの調達において、機動的かつ効率的、効果的なシステム整備に資するよう、契約締結前に、複数事業者と提案内容について技術的対話を可能とする調達・契約方法を、2020 年度から試行的に開始する。

これらの取組を通じ、運用等経費及び整備経費のうちのシステム改修に係る経費を2025 年度までに 2020 年度比で3割削減することを目指す。

技術的対話を可能とする調達・契約方法とは?

情報システムに係る新たな調達・契約方法に関する試行運用のための骨子によれば、下記のようになるようです。

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【出典元】情報システムに係る新たな調達・契約方法に関する試行運用のための骨子 令和元年5月29日

①は一般競争入札で、価格と技術を総合的に判断し落札者を決定する方式の流れですが、今までと異なるのは、技術提案書と価格から1社の落札業社を決めるのではなくて、技術的対話を通して複数業者を合格として、さらに仕様書確定後にもう一度技術審査をして最終的な業者選定をしている点と思われます。あとは業者決定後に対話プロセスを公表するところでしょうか。

②はいわゆるコンペですが、あまり政府の情報システムの調達で行われているのを見たことはない気がします。②は随意契約(いわゆる随契)が前提で入札ではないようで、こちらも今までとの違いは技術的対話の部分だと思われますが、技術的対話の中で2次審査に合格した複数業者と価格の交渉をどのようにやるのかは疑問が残ります。

この調達方式がアジャイルに向くのか?

①の一般競争(総合評価落札方式)について

まず一般的に一括請負の契約はアジャイル開発には向かないと言われています。

(参考) アジャイル開発に向けたITベンダーとの契約の結び方【第6回】(digital cross)

①の一般競争入札での技術提案では、応札業者が結局、「こんな機能を持ったシステムをこのくらいの期間とこのくらいの金額でできますよ!」って、まだ開発も始まってない段階から提案を出して、金額含めて「よし!」じゃあそちらに決めた!みたいな形で、業者が選ばれます。

結局金額と期間と作る規模が決まっているし、最初の提案価格で審査されるので何としても受注したい場合は業者がどのくらいのリスクを負うのかを判断して、価格を抑えて応札してくることも考えられます。結局この調達方式では”請負契約”になるのが必須なので、”技術的対話期間中”に別契約でも結んで開発を開始でもしない限り、アジャイルな開発を行うことは難しいように思われます。

②の企画競争方式について

②の方がまだ可能性がある気がします。技術的対話の中で、イテレーション(スプリント)毎の開発の議論とスコープ調整がされること、あとは契約形態自体もここで議論ができるのであれば可能性があると思います。

ただし、②の企画競争ってのが何を審査するのかイマイチピンと来ませんでした。結局審査では実態のないプレゼン資料が作られて、上手いプレゼンをやったらOKみたいなイメージなので、開発されるシステムの良し悪しはここでは何も評価できない気がします。

今後の政府調達に期待

ともあれ、アジャイルな開発も見据えた方向に政府の情報システム調達が動き出したというのは、良い傾向ではあるので、ぜひ見せかけだけの取り組みではなくて実際に中身のある施策として本気で取り組んでいってもらいたいなーというのが、1エンジニアとして思うところです。

政府が変われば、大企業もある程度は変わるし、大企業が変われば、世の中のシステム開発ももう少し変わっていくだろうし、普通のSIerシステム開発でもアジャイルに、本当の価値を生み出すシステムを作れるようになるのであればこんなに嬉しいことはないと思います。