The Pitcher in the Rye

I'd just be the catcher in the rye and all. I know it's crazy, but that's the only thing I'd really like to be.

約10年勤めた大手SIerを退職しました

いわゆる退職エントリというやつです

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この2020年1月31日をもって、約10年勤めた大手SIerを退職(転職)することとなったので、自分考えを整理するために書いてみようと思い立ちました。

自分のバックグランド等

簡単に自分のバックグラウンドとどんな業務に関わってきたかを書きます。

  • 博士(理学)
    • 物理学系(実験系)
  • 新卒で大手SIerへ就職
    • 約10年間、特殊な業務ドメインシステム開発/運用に従事
    • 業種はSE(システムエンジニア
      • インフラ構築、アプリケーション開発、顧客システムの運用業務、顧客フロントなど様々な役割を担う
      • 10年の1/3くらいの期間、客先に出向

なぜ会社を辞めようと思ったのか?

会社を辞めようと思った理由はいっぱいありますが、いくつか大きな点を挙げると下記のような理由です。

  • 中間管理職(いわゆる課長・部長あたり)のキャリアに魅力が無い
  • 優秀な若手がどんどん辞めていくがそれに対する対策をしない
  • 経営層の経営判断が遅く物事が進まない
  • 自分ができる範囲のボトムアップ活動があまり良い結果にならなかった
  • 社外を見ると今の組織の停滞具合がより顕著に実感された

中間管理職のキャリアに魅力がない

中間管理職のキャリアに魅力が無いのは、ジャパニーズトラディショナルカンパニーではもう常識的なことではありますが、以下のような状況でした。

  • 雑務に追われて、技術もマネジメントも中途半端
  • 課長職は毎月300時間くらい仕事に費やし、昼も夜も無いような生活だけどは一般社員より給与が低い

中間管理職の雑務は稟議や勤怠等の承認処理、金勘定、下請け会会社の人員受け入れ、備品管理、コンプライアンス対策、監査対応、上役への社内報告等々多岐にわたっていて、定時内は雑務を片付けてその後に本業をするというような状態でした。

課長・部長はマネジメント層なのでマネジメント業務がその職務だと思いますが、本業に直結するようなマネジメントに本気で取り組んでいるように見えた人は自分が観測できる範囲では残念ながら一人も居ませんでした。雑務が多すぎるのでそれも仕方がないのかもしれません。

ここで自分の状況を話すと、自分はちょうど一般社員としての一番上のランクに昇級したところでその後は中間管理職になるかどうかのキャリアを選択するというようなフェーズにいました。会社が用意しているキャリアパスとしては、「一般社員で居続ける(基本的に給与は変わらない)」か「管理職になってさらに上を目指す」の2択でした。そのため会社が用意している唯一のキャリアアップの道である中間管理職のあり方は、自分の今後を考える上で大きな課題でしたが、明らかにそのキャリアには魅力がありませんでした。

優秀な若手がどんどん辞めていくがそれに対する対策をしない

これも悲しいことだったのですが、優秀だなと思う若手はすぐに辞めていきました。5年離職率が大体2〜3割くらいであったように思います。まあ昨今の転職市場の盛り上がりからして仕方がないことだったとは思うのですが、その状況をまさに経営層と中間管理職が「仕方がない」という理由だけで片付けてしまっていたのが非常に残念でした。

いや、実際には経営層に近い人はこの状況に危機感をもっていたと思います。少なくとも危機感をもっていると発言はしていました。ただし、発言をするだけで実際に行った行動はほとんど普段顔をあわせることのない新人と経営層が面談をするみたいなことだけでした。危機感をもっているという発言をしていても、本当にその危機感に見合うだけの行動をしている人が管理職の中にいなかったことが残念でなりませんでした。

若手が辞めていく理由は、会社に残った別の若手から間接的に聞いたものばかりなので本当のところは分りませんが、概ね下記の2つが有力なものだったようです。

  1. やっている業務量に対して年収が見合わない
  2. 下請け業者のコントロールだけで技術が身につかず今後のキャリアに不安がある

1.を理由とする若手は大体外資系コンサルに転職していき、2.を理由とする人はWeb系のスタートアップとかに転職していきました。現状の業務は面白い点もあるのだけど将来を考えると泣く泣く転職するという人もいたので、この二つの理由を真摯に受け止めて本気で対策を打とうと思えば、「危機感持ってるよ感を出す」だけのおざなりな面談とかよりももっと実効性のある対策を考えることはできたと思います。

また、転職によるキャリアアップはもう時代の流れと受け止めるならば、それを前提として新たな人材をどう獲得するのか、事業部としての裁量でやれることをもっと真剣に考えることもできたと思います。ただし、残念ながらそうした動きが生まれることはありませんでした。

経営層の経営判断が遅く物事が進まない

若手が辞める例だけではないですが、IT業界を取り巻く色々な変化に経営層は一応なりとも危機感を見せていました。一部のトップマネジメント層では、大きく社内を改革しようとするような行動も見えてはいました。ただし、それは一部の変化にとどまり、複数の事業部が個々の利権と社内政治で複雑に絡み合う会社の中ではトップマネジメントの試みがそのまま適用されるわけではなく、自身が所属している事業部には少なくとも自身が観測できる範囲では何の変化もありませんでした。

そういう状況の中で自分自身は何をやっていたのかというと、受託だけでなく自社サービス開発をやってみようといった提案や、あるいはスタートアップ的なコミュニティ活動を事業部の中でやってみようという提案等をやってみました。そしてことごとく上手くいきませんでした。

色々な提案をしていて一番思ったのは、経営判断がものすごく遅いという点です。まあ、これもジャパニーズトラディショナルカンパニーでは分り切ったことなのかもしれませんが、まず経営層(といってもその中にも何階層も階層があってその中の一番下の階層)に対して話をもって行こうとすると、月に一回くらいの頻度でやる提案会議(必ず開催されるとは限らない)に話を持っていかなければなりませんでした。

その会議に話を持っていくためには、その会議に持っていく話を厳選するための別の会議体みたいなものがあって、その別の会議体の中で決められたフォーマットに従った情報を埋めて、そのアイデアが一定レベルのもの(と中間管理職の担当が思ったもの)だけが、その経営層の会議にかけられるみたいな手順を踏むというやり方でした。しかもフォーマットがあらかじめ決められているにも関わらず、そのフォーマットだとよく分からないという理由でなぜか追加資料を作らされるという意味の分からないところもありました。

そして、その経営判断を行う会議に持っていっても結局決めるのは次年度の予算とかになるので、その年の12月くらいまでに経営層の承認を得られないと次年度の計画として取り込まれないというような時間感覚でした。別な会議体でフォーマットに従った資料をブラッシュアップして、さらにフィードバックを受けて別資料を作って、というプロセスが必ず発生するので、提案した内容が実際の計画に落とされるのは最短でも1年後くらいの時間になります。

自社サービス開発とかを本気で考えた場合、上記のような経営判断のスピード感では遅すぎます。さらに受託の開発業務をやりながらその空き時間で上記のような提案を続けるモチベーションを保ち続けるのはかなりきつく、実際そうした理由もあって提案を撤回したことがありました。

自分ができる範囲のボトムアップの努力をしたがあまり良い結果にならなかった

上記の経営層への提案の例でも触れていますが、中間管理職のキャリアに魅力がなくロールモデルとする人が居ないことは新人の頃から分かっていたことではあったので、それを変えるためのボトムアップの活動を色々やってはいたのですが、それがあまり実らなかったという点も退職を決める大きな要因でした。

具体的には、下記のようなことをやっていました。

  • 若手から中堅を集めての社内勉強会開催
  • 社内限定ブログで自身の考えを忌憚なく発信(経営層のダメ出しもするが、必ず代替案を出す)
  • 中間管理職・経営層への提案(業務直結のものから社外コミュニティ活動の提案など)

他にも色々試したいことがあったのですが、上記の活動をやっていこうとしている時に客先への出向することになり活動が途切れてしまったり、出向から戻ってきたら活動の主要メンバーだった人たちが会社を辞めていたりと色々あって、活動自体が中途半端になってしまった点が悔やまれる点でした。

客先出向自体は今振り返ってみればそれはそれで良い経験だったと思うのですが、それによる活動の停滞は自身がこの会社で今後もやっていこうと思うモチベーションを下げる大きな原因でした。社内の改善活動を本格的に実施しようとしている時に上司に客先出向を言いたわされ、社内でやりたいこと押しとどめて出向を受諾したにも関わらず、数年に渡る出向から戻ってみると当時撒いていた改善のタネは刈り取られており、それどころかその当時よりも活動の機運は停滞しているような状態でした。

「転職」という考えが頭に浮かぶことは何度もありましたが、それを実際に行動に移してみようと心に決めたのは、客先出向から戻ってきて社内が全く変化して居なかったところが大きかったです。

社外を見ると今の組織の停滞具合がより顕著に実感された

今まで社内に向けた活動は色々とやっていたのですが、恥ずかしながらエンジニアの社外勉強会などはこれまで全く参加したことがありませんでした。ちょこちょこ参加するようになったのはここ半年くらいになります。そうした場所などで経験した社外の刺激がこの会社を去ろうという考えを後押ししました。

社外勉強会に参加しようと思ったきっかけは、ふとしたことからTech系のポッドキャストを聞くようになって、そこでエンジニアの勉強会の話題が度々登場していたので出てみたいと思ったからでした。

特に影響を受けたポッドキャストは、「しがないラジオ」(SIerのエンジニアからWeb系に転職したんだが楽しくて仕方がないラジオ)でした。

shiganai.org

タイトルは色々煽り気味なので敬遠される方もいるかもしれませんが、聞いてみると自分よりも若いパーソナリティの方々(@jumpei_ikegamiさん、@zuckey_17さん)が、しっかりした考えを持って自身のキャリアを考えられていて、大手SIerを辞めたのちに独自のキャリアを築かれているのに新鮮な感動を覚えました。

登場するゲストの方々も独自のキャリアを歩んできた様々な方がいらっしゃって、社内にはいないような考え方を持った人たちが多く、そうした人々の考えを聞くに社内のメンバとのギャップが大きく意識されました。一番違いに思ったのは、自分の周囲をより良くしたいという考えやそのために変化しようとする姿でした。

こうしたポッドキャスト駆動で勉強会に出席するようになっていき、ポットキャストや実際の勉強会で社外の人たちの考えを聞くにつれ、自分が思っている以上に現職の会社の停滞感が強く意識されました。

結局まとめると単純な理由

ここまで書いてきて色々と退職理由をあげていますが、端的にまとめると「社内が嫌になった」+「社外の方がよく見えた」というすごく単純な理由です。この辺は退職エントリの理由としては普遍的な構造なんだと思います。もちろん隣の芝は常に青いので、社外が手放しで楽しい場所だとは考えていません。ただし、自分の周囲をより良くするという点では何らかの変化が必要で、変化を起こすための手段として環境を変えてみるのは有効な手段だと思いました。

それで、会社を辞めて何をするのか?

SIerのSEからデータサイエンティストとして転職をすることになります。業務改善を担うようなコンサルティング業務を主として行なっている会社です。現職の職場で業務改善を試みながらもうまくいかなかったことから、そうした方向性を少し違った視点で追求してみたいという考えと、データ解析を趣味や一部現職の運用業務でも実施していた経験を生かしたいという考えが結びついた結果になります。

実際に業務を初めて見ないとわかりませんが、色々とチャレンジングなことを行なっている組織のようなので、そこで変化を楽しんで行ければと考えています。